カメ散歩の日記

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聖なるズー のメモ


書籍名

聖なるズー 濱野ちひろ 集英社 2019/11/30

気になった部分

  • 著者が約10年DVの被害者。結婚を期にようやく逃げ出す。
    • 酷い。凄惨。私では耐えられる気がしない。逃げるとか助けを求めるという気力・意志がなくなるというのがすごい(パワハラ、黒人奴隷、うつ病、シベリア抑留、ホロコースト関連の記事や書籍を読むと似たような表現に出会うがDV独特の感じもある)。やや不謹慎だが、強烈なインパクトで冒頭から読者の心をつかむのはうまい、と思ってしまった。
  • 欧米圏では動物とのセックスについての糾弾が厳しくなっている
    • 日本では公にそのような活動は起きなさそうな印象。駅前とかでテント貼って説明会とかイメージできない。
  • キリスト教的には「動物とセックスするな」と定められている(旧約聖書レビ記一八章)動物とセックスした人は死ななければならない、動物も殺さねばならない(同二十章)
    • 近親相姦、同性愛、姦淫などが忌避されるのは知っていたが、動物に関しては知らなかった
  • ドイツに動物性愛車の団体「ゼータ」がある
    • 欧州かつドイツというところがなんとなく「あぁ〜」と納得。自分の中に偏見があるな・・・。
  • 犬がパートナー、妻、夫
    • 日本の漫画とかアニメでは動物のキャラクターと人間が普通に生活しているものがあるので、そんなに心理的な違和感はない、気がする。
    • とはいえ、後に出てくるようにセックスをするという話に及ぶと、さすがに引いてしまう。同人誌の世界ではそのような描写は結構あるので、「設定としてはあり」な気がするが、本当にやっちゃうのは「やりすぎ」と感じる。
  • 現在の精神医学で動物性愛は、性にまつわる精神疾患。一方で二〇〇〇年代以降動物性愛を性的嗜好の一つとして捉える動きも生まれた。
    • 自由主義社会の流れとして「人として認めて受け容れよう」という潮流があるのはわかる。
  • 「動物パートナーとのやりとり」「人間どうしのフリーセックスイベント」
    • 生々しいルポになっている。私には「別の世界の話」と感じらる。
  • セックスや愛について自分の望む生き方を語る
    • この視点で見ると「なんでもありでいいんじゃない、暴力がなければ」と思ってしまった。本書の終盤で、それまでの劇薬的な部分が中和されていく感じ。

雑感

読む前は「どんな話が書いてあるんだろう、興味津々」であったのが、途中は「うわぁ、結構生々しいな。ちょっと引くかも」となり、最後は「違和感は少ない。受け容れ可能。」といった感じに変化していった。著者が文化人類学者として丁寧に人と接した上で慎重に文章を書いていったということと、前〜中盤の過激さに比べて終盤はトーンが落ち着いているということも、読後のマイルドな印象につながっていると思う。人間を受け入れるための視野が広がると思う。

本書の中には初めて知る内容が多くあったので、読んでいる最中や読書後は色んな方向に思考が飛んでしまった。そういう意味ではとても良い刺激を与えてくれた:

  • LGBTQとはまた別のセクシャルマイノリティのお話であり、かつさらに少数派の話なので「一般社会の中で生きていくだけでも大変だよなぁ」というのが率直な感想。「このような人たちはきっと昔からいたんだろうなぁ」と感じる。今より多かった/少なかったというのはわからないだろうけど。
  • 本書より少し前に読んだ「闇の脳科学:ローン・フランク:文藝春秋:2020/10/15」によると「脳に電極を差し込んで電気刺激を与えることで、同性愛者を異性愛者にすることができるかる」らしい。ズーの人も変えられる?
    • 何が「正常/異常」か言えない世の中になっているので、「治療」と称してやってしまうのはまずいよな。ズーの人は自分を変えたいと思うのだろうか?本人が今の自分に満足しているか次第。
    • 「今の社会では生きづらい」と思っているズー(を始めとしてマイノリティの人)は多そう。「見た目を変えれば幸せに生きられる」と感じる人が美容整形をするのと同じような感覚の治療になればやるのかな?(脳をいじるのであれば倫理的な問題がついてくると思うが)
    • 今の自分に満足していても「もしXXXになったらどうなんだろう?」的な思考は普通に出てきそう。そうなるとマイノリティだけでなく、その他大勢の人も巻き込んで議論となるので、余計に収集つかない。
    • 「自分の脳をお好きにカスタマイズ」となるとみんなやりたがるだろうな。「デザイナーズベイビー」ではなくて自分の話だし。→ ブレードランナー的な世界だったり攻殻機動隊的な世界はもうすぐ近く、かも・・・。
  • 動物なのが問題をややこしくしている。動物は「ペット」だったり「食料用家畜」「使役家畜」だったりする。人間だったら「人権問題」「尊厳問題」としてある程度線が引きやすいが、動物だと「動物虐待が問題?」まで後退してしまう。
  • 人間に近い人工知能を作るためには、このような「本能」に近い部分ってどうするんだろうか?今のような数学的(統計的)な要素からは生まれてこないと思うが、「パラメータAの場合はXが好き、パラメータBの場合はYが好き」的な微調整なんかはできちゃうかも。

読むことになったきっかけ

Yahoo!ニュース本屋大賞2020年ノンフィクション本大賞ノミネート」「第17回開高健ノンフィクション賞」ということもあり前から気になってはいた。ただ「動物との性愛」というテーマが結構奇抜なので、本屋で見かけても他の本に食指が動いていた。受賞後しばらく経っていても書店に陳列されていたので「たぶんそれなりに売れているんだろうから面白いんだろうな」ということで購入。